日本には数々の伝統芸能が受け継がれていますが、西洋化が進む日常生活の中で顧みられる機会が減りつつあります。技術の進歩によって生活スタイルが大きく変わる世界でも同じ傾向にありますが、代々受け継がれた伝統を守り続ける人も数多くいます。
インドネシア、ジャワ島の中部のジョグジャカルタでは、旧王家の王の存続が国内で唯一認められ、現在でも古都の風情を色濃く残しています。ボロブドゥールやプランバナン寺院群などの世界遺産に訪れる際には必ず立ち寄る街です。
ジョグジャカルタの中心に1755年、王宮のクラトンが建造されました。ジャワ建築の中でも最も評価の高い宮殿には、歴代のスルタンが暮らし現在もその伝統が受け継がれています。
クラトンと北広場を挟んで向かい合うのがソノブドヨ博物館です。館内にはガムランを奏でる数々の打楽器、影絵芝居に使う人形、伝統工芸品のバティックなどが展示され、多彩なインドネシアの文化に触れることができます。展示物の他にソノブドヨ博物館で見逃せないのが夜に併設シアターで上演される伝統の影絵人形芝居です。
インドネシアのジャワ島やバリ島では10世紀以前から、ワヤンと呼ばれる影絵人形芝居が演じられてきました。操る人形の素材に違いによって2種類あり、水牛の皮の場合はワヤン・クリ、木を使っているとワヤン・ゴレと呼ばれています。現在でも子供の誕生や成人、結婚などの人生の節目、村落の節句行事などの場で盛んに演じられています。一つの演目で夜が明けてしまうこともしばしばあるのですが、ソノブドヨ博物館では2時間前後に凝縮したプログラムが上演されているのです。
ブレンチョンというランプの明かりで白いスクリーンのクリルに人形の影絵を映し出すことによって、様々な物語が展開します。クリルの裏で人形を操作するのがダランです。ダランはただ一人で夥しい数の人形を自由自在に操り、時には効果音を鳴らしながら語りを聞かせていきます。そればかりでなく、背後に控えるガムラン音楽の楽団に指示を与えるのもダランの重要な役割です。一人で何役もこなしながら、芝居の全てを仕切るのです。ダランは特別な才能を持つ人として、インドネシア社会で尊敬を集める存在となることが多いようです。
ワヤンのストーリーは古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』や『ラーマヤナ』から引用されることが多いのですが、ヒンドゥー教の宗教観にとどまらず社会風刺、子どもの教育的要素が盛り込まれることもあります。台詞は現代インドネシア語ではなく古い地方語で行われるため、ストーリーを正確に把握することはできないのですが、ガムラン音楽の響き、ダランの語りや巧みな影絵の動きが、ワヤンの魅惑の世界に誘ってくれます。
【データ】
施設名：ソノブドヨ博物館 Museum Sonobudoyo
住所：Jalan Alun-alun Utara Yogyakarta
URL：http://www.sonobudoyo.com/id
博物館開館時間：火・水・木・土・日曜日 8:00〜15:30，金曜日8:00〜 〜14:00
ワヤン上演時間：月〜土曜日20:00〜22:00
ワヤンチケット料金：20,000ルピア
大林 等
メーカ勤務の出張とプライベート旅行で渡航した国の数は49になります。各国での 異文化体験は数知れません。カルチャーショックを起爆剤に、各国の歴史や文化に 深く切り込むスタンスを崩すことなく持ち続けています。観光情報から社会、習 慣、宗教、グルメ、アート、民族芸能まで、ジャンルの垣根を超えた海外での経験 を、各種の雑誌やWebサイトなどで発信し続けています。
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